ナノヘリックスの高密度アレイ: アキラル分子からのラマン散乱がキラルメタ表面での近接場増強を明らかにする

Dense Arrays of Nanohelices: Raman Scattering from Achiral Molecules Reveals the Near-Field Enhancements at Chiral Metasurfaces. Advanced Materials, 35(34), 2209282. https://doi.org/10.1002/adma.202209282

著者: Robin R. Jones, Cornelia Miksch, Hyunah Kwon, Coosje Pothoven, Kristina R. Rusimova, Maarten Kamp, Kedong Gong, Liwu Zhang, Tim Batten, Brian Smith, Alejandro V. Silhanek, Peer Fischer, Daniel Wolverson, Ventsislav K. Valev


 表面増強ラマン散乱(SERS)分光法は、超高感度の化学分析技術として注目されており、微量の物質に対して高い特異性を持つ。SERSは、光と物質の相互作用を増強するためにナノ構造基板を利用し、農薬、医薬品、抗生物質、重金属、病原体や細菌の検出に活用されている。特に、SERS基板として金属ナノ材料が使用され、ナノスケールの製造技術とナノテクノロジーの進展により、複雑な形状のデザインが可能となり、ナノスケールでの光の指向性と閉じ込めが実現されている。

 しかし、現在使用されている多くのヘリカルSERS基板は大きく、ヘリックスの長さが0.5μmを超えることが多いため、ナノスケールでの一様な電磁場のホットスポット形成が困難である。さらに、従来のナノヘリックスは製造コストが高く、大面積にわたって均一な増強を実現することが難しいという問題がある。

 そこで、本研究では、低コストで大面積にわたって強力かつ再現性のあるラマン信号の増強を提供するナノヘリックスの高密度アレイを開発した。このナノヘリックスは、長さが約100nm、線径が約25nmであり、ナノグランシングアングルデポジション(nanoGLAD)技術を使用して製造された。これにより、表面汚染物質のないクリーンな基板が得られ、アキラル分子(クリスタルバイオレット)のラマン応答を用いて、キラルメタ表面での近接場増強が明らかにされた。具体的には、左旋および右旋円偏光を用いた照射により、ナノヘリックスのキラリティーに応じたラマン強度の差異が観察され、これが電磁場のホットスポット形成に寄与していることが示された。さらに、数値シミュレーションにより、左旋および右旋円偏光との電磁結合の違いが確認された。この研究の結果、ナノヘリックスは環境科学や他の分野におけるSERS応用において有望であることが示された。

Cobolt社のレーザー発振器の仕様とその実験内容

 使用したレーザー発振器はCobolt社のRL532-08で、532nmの連続波レーザーを発生させる。このレーザーは50mWの出力を持ち、線偏光された光を生成する。実験では、Rayleighフィルタの前にグランレーザポラライザーを配置し、λ/2板を使用して透過効率を最適化した。さらに、アクロマティックλ/4板を配置して偏光効果を補正し、円偏光光を生成するために用いた。アナライザーとしては、ワイヤーグリッドアクロマティックポラライザーとアクロマティックλ/2板を組み合わせて使用し、分光計の偏光感度を最適化した。これにより、サンプルに対して左旋および右旋円偏光光を照射し、そのラマン散乱スペクトルを測定した。

ラマン分光の設定は、532nmの励起波長を使用し、N-plan 50x対物レンズ(数値開口0.75)を通して照射および散乱ラマン光を収集した。円偏光感度SERS実験では、60μm×60μmの格子状に均等に配置された169点からなるグリッドを用いて、各点で2秒間の統合時間を設定してデータを収集した。これにより、ナノヘリックス基板の均一性と再現性を評価し、左旋および右旋円偏光光に対するSERS信号の違いを明らかにした。

この結果から、ナノヘリックスの高密度アレイは、強力で再現性のあるSERS基板として非常に有望であり、環境科学や材料科学における多くの応用が期待されることが示された。