Guinet, Y.; Paccou, L.; Hédoux, A. Low-Frequency Raman Spectroscopy: An Exceptional Tool for Exploring Metastability Driven States Induced by Dehydration. Pharmaceutics 2023, 15, 1955. https://doi.org/10.3390/pharmaceutics15071955
背景
低周波ラマン分光法(LFRS)は、分子材料の相変化を分析するための強力な手段である。特に、150 cm⁻¹未満の領域における振動スペクトルの処理によって、結晶多形や相変化のメカニズムを迅速かつ正確に特定できる。例えば、イプロフェンの脱ガラス化過程や、キサンチン系分子であるテオフィリンおよびカフェインの脱水メカニズムの分析に利用されている。LFRSは、高弾性散乱の抑制と非常に低い周波数でのラマン信号の検出を可能にする新世代のフィルター技術の発展により、日常的な分光計でも使用可能となっている。この技術により、分子材料の集合振動(フォノン)や内部分子振動、さらには水分子の振動など、多様な分子運動に関する情報が得られる。
従来の問題点
しかし、LFRSの生データの処理は複雑であり、正確な情報を抽出するためには慎重なスペクトル処理が必要である。特に、低周波数領域におけるラマン信号の正確な検出と、熱変動によるラマン帯の歪みを避けるための特定のデータ処理が要求される。また、異なる相変化のメカニズム(例えば、拡散メカニズムや核形成成長メカニズム)を正確に区別することは容易ではない。これらの課題により、LFRSの完全な情報抽出が困難であり、従来の技術では限界がある。
解決方法と結果
そこで、本研究では、テオフィリンおよびカフェインの脱水メカニズムを低周波ラマン分光法を用いて詳細に調査した。テオフィリンの脱水に関しては、相対湿度(RH)と温度に依存する二つのメカニズム(拡散メカニズムと核形成成長メカニズム)が特定された。室温および1% RHでは拡散メカニズムが主導し、高RH(>30%)では核形成成長メカニズムが観察された。異なるRH条件下で、種々の中間的な結晶状態が生成され、これによりテオフィリンの脱水プロセスが詳細に解明された。一方、カフェインの脱水は、異なるRH条件下でも一つの主曲線で記述できる核形成メカニズムによって進行することが確認された。これにより、カフェイン脱水のキネティクスが詳細に解析され、異なるRH条件下で生成される中間状態が明らかにされた。

使用されたCoboltのレーザー
波長660 nm、出力250 mW Flamenco
