ポリイミド中のレーザー誘起グラフェンを用いたアンテナ応用

Laser-Induced Graphene in Polyimide for Antenna Applications

Aivaras Sartanavičius, Justina Žemgulytė, Paulius Ragulis, Karolis Ratautas, Romualdas Trusovas


1. 従来技術の長所

 レーザー誘起グラフェン(LIG)は、独自の特性と応用可能性から近年注目されている材料である。特に、機械的な柔軟性、生体適合性、高い電気伝導性などの特性を持ち、ウェアラブルやフレキシブルな電子デバイスに幅広く利用される可能性がある。LIGの生成は、主に1ステップのプロセスであり、レーザー照射によって材料が加熱され、三次元の炭素構造に変換される。この手法は、ポリイミド(PI)やPDMS、PEIなどの様々な有機材料にも適用可能であり、紙、木材、食品製品などの多様な基材にも使用されている。

LIGの形成には、1064 nm、532 nm、355 nmのパルスレーザーやCO2レーザーが使用される。特に、パルスレーザーや短波長レーザーを用いると、フォトケミカル効果が支配的となり、材料の化学結合を直接的に切断することができる。一方、1064 nmのレーザー照射では、フォトサーマル効果が顕著であり、熱エネルギーの生成によって材料の化学結合を切断することができる。

レーザー誘起グラフェンは、環境条件に対する安定性と耐久性があり、様々な材料での大規模生産も実証されている。例えば、紙やバイオマス製品でのLIG形成は、製造コストを大幅に削減し、循環経済に貢献する可能性がある。さらに、LIGの応用例としては、センサーやIoTデバイス、アンテナなどがあり、軽量で柔軟な特性を活かして、曲面やウェアラブル電子機器への統合が可能である。

2. 従来技術の問題点

 しかし、LIGの製造における一貫性の確保は、使用するレーザーのパラメータに大きく依存する。レーザー出力、波長、照射時間、スキャン速度、スキャン回数などの要因がLIGの品質と特性に影響を与えるため、これらのパラメータを正確かつ一貫して制御することが重要である。LIG製造の一貫性を向上させるためには、製造技術、設備、およびプロセスの最適化において進展が必要であり、産業規模での生産にはレーザー装置のコストも重要な要因となる。

3. 解決方法の提案と結果

 そこで、本研究では、ポリイミド中のレーザー誘起グラフェン(LIG)を用いた2.45 GHzパッチアンテナの製造と評価を行った。使用したレーザー発振器は、Ekspla社製のピコ秒固体レーザー(1064 nm)で、パルス持続時間は10 ps、パルス繰り返し周波数は100 kHz、ビームスキャン速度は200 mm/sであった。レーザー照射ドーズは、レーザー出力(4 Wおよび5 W)、焦点面からのサンプル位置(焦点および1 mm上方)、およびスキャン回数(2回および3回)を変えることで調整した。シート抵抗の最小値は36.6 Ω/sqであり、最適なレーザープロセスパラメータを用いて形成されたLIG構造は、ラマンスペクトルによって確認された。

本研究の結果、LIGパッチアンテナは2.45 GHzのWiFi帯域で動作し、反射係数が-10 dB未満であり、最大ゲインは7.4 dBiであった。LIG層のシート抵抗が低いほど、アンテナの性能が向上し、銅製パッチアンテナと比較しても競争力のある性能を示した。LIG層の導電性をさらに向上させることで、アンテナの効率と全体的な性能を向上させる可能性がある。

本研究は、環境に優しい持続可能な解決策として、取り外し可能で柔軟なアンテナの製造に新しい可能性を示した。LIGプロセスの最適化と他の基材の調査を進めることで、LIG層のシート抵抗をさらに低減し、アンテナ効率を向上させることが期待される。

使用されたレーザー発振器の仕様

  • メーカー: Ekspla
  • レーザータイプ: ピコ秒固体レーザー
  • 波長: 1064 nm
  • パルス持続時間: 10 ps
  • パルス繰り返し周波数: 100 kHz
  • ビームスキャン速度: 200 mm/s

参考文献: Laser-Induced Graphene in Polyimide for Antenna Applications. Aivaras Sartanavičius, Justina Žemgulytė, Paulius Ragulis, Karolis Ratautas, Romualdas Trusovas.