Kari Lavinia vom Werth, Björn Kemper, Stefanie Kampmeier, Alexander Mellmann. Application of Digital Holographic Microscopy to Analyze Changes in T-Cell Morphology in Response to Bacterial Challenge. Cells 2023, 12, 762.
背景
細菌感染症は急速に進行し、敗血症という生命を脅かす状態を引き起こすことがある。敗血症の発生率および死亡率は依然として高く、全世界で年間4900万件の症例と1100万件の死亡が報告されている。遅れた診断および不適切な治療がこの高い死亡率の主な原因である。従って、サイトカイン、ケモカイン、急性期タンパク質などのさまざまなバイオマーカーが提案されているが、敗血症の診断には十分な感度と特異性を持つ単一のバイオマーカーは存在しない。免疫細胞の形態解析が診断アプローチとして注目されており、自動血液分析装置を用いた研究では、敗血症患者と健康な対照群とで単球や好中球の形態変化が報告されている。定量位相イメージング(QPI)は、疾患による異常細胞形態を検出する非侵襲的かつラベルフリーの技術であり、臨床診断の文脈で注目されている。デジタルホログラフィック顕微鏡法(DHM)は、QPIの一形態であり、生細胞の形態学的および物理的パラメータを決定することができ、固定や染色、ラベリングの手順を必要としない簡便かつ迅速なイメージング技術である。これにより、DHMは疾患診断の有望なツールとなっている。
従来技術の問題点
しかし、敗血症の診断においては、現行のバイオマーカーの感度と特異性が不十分であり、単一のバイオマーカーでは信頼性のある検出が難しい。さらに、従来の細胞形態解析手法は、細胞の固定や染色が必要であり、時間と労力を要するため、迅速な診断には適していない。自動血液分析装置を使用した研究では、敗血症患者と健康な対照群との間で好中球や単球の形態に差異が見られるが、これらの変化が敗血症の重症度や予後とどのように関連しているかを明確に示すことは難しい。
解決方法の提案と結果
そこで、本研究ではDHMを使用して、細菌挑戦に対するT細胞の形態変化を定量的に解析し、敗血症の早期診断と原因菌の特定を支援する新たなアプローチを検討した。健康なボランティアから採取したヒト初代T細胞を、異なるグラム陽性およびグラム陰性細菌由来の無菌培養上清や膜小胞(MVs)といった細菌性決定因子に曝露し、DHMによるタイムラプス計測を行った。結果として、T細胞は細菌性ストレスに応じて特異的な形態変化を示し、これは原因菌に依存していた。特に、黄色ブドウ球菌(S. aureus)由来の培養上清は細胞の完全な溶解を引き起こし、グラム陰性菌に対しては細胞収縮および形状の円形度の低下が見られた。また、細胞応答は細菌決定因子の濃度に依存しており、濃度が高いほど形態変化が顕著であった。
Cobolt社製レーザー発振器(Cobolt 06-DPL、波長532 nm、出力25 mW)を使用してDHM測定を行った。これにより、細胞形態の変化を高精度で捉え、細菌性ストレスに対するT細胞の特異的な反応を定量的に評価することができた。本研究の結果は、DHMが敗血症の早期診断と病原菌の特定に有用な情報を提供し得る新たな手法であることを示している。
使用されたCoboltのレーザー
06-DPL 532nm 25mWレーザー
