Bokemeyer, A., Buskermolen, J., Ketelhut, S., Tepasse, P.-R., Vollenberg, R., Trebicka, J., Schmidt, H.H., Vieth, M., Bettenworth, D., Kemper, B. “Quantitative Phase Imaging Using Digital Holographic Microscopy to Assess the Degree of Intestinal Inflammation in Patients with Ulcerative Colitis.” J. Clin. Med. 2023, 12, 4067. https://doi.org/10.3390/jcm12124067
背景
潰瘍性大腸炎は、大腸の慢性炎症性疾患であり、粘膜の炎症を引き起こす。この疾患は再発と寛解を繰り返し、直腸から近位に広がる。潰瘍性大腸炎の治療において、臨床的および内視鏡的寛解が重要な目標とされているが、最近では組織学的寛解も治療目標として注目されている。組織学的寛解は、入院率の低下、結腸切除率の低下、大腸がんのリスク低減と関連している。従来の組織学的評価は、多数のスコアリングシステムを用い、炎症性腸疾患に精通した病理医が必要とされる。
定量位相イメージング(QPI)とデジタルホログラフィック顕微鏡(DHM)は、染色不要で組織の炎症度を定量的に評価する客観的方法として成功を収めている。DHMは透明な試料による光路長遅延を測定し、組織の屈折率を算出する技術である。これにより、細胞内および組織全体のタンパク質含量を定量化することができる。
従来の研究では、DHMを用いて、炎症の程度と組織の屈折率との強い相関が見られた。また、クローン病患者の活性期と寛解期の組織間で組織の屈折率に有意な差異が観察された。さらに、DHMはクローン病関連の狭窄組織と非狭窄組織を区別する能力も示した。このように、DHMは炎症性腸疾患分野の臨床医および病理医をサポートする有望なツールと考えられている。
※デジタルホログラフィー:光の干渉を利用して物体の3D像をデジタル的に記録し再現する技術
※定量位相イメージング:光が物体を通過する際に起こる微細な位相変化を測定し、物体の形状や成分を詳細に解析する技術。特に透明な細胞や組織の観察に用いられる。
従来の問題点
しかし、組織学的評価は依然として課題が多い。炎症性腸疾患関連の組織学的スコアリングは30以上存在し、その正しい適用には高度な病理学的専門知識が必要である。また、組織学的スコアリングの標準化が不十分であり、評価者間の一致率が低いことが指摘されている。さらに、組織学的寛解を評価するためには多くの時間と労力が必要であり、迅速かつ客観的な評価ツールが求められている。
解決方法と実験結果
そこで、本研究ではデジタルホログラフィック顕微鏡(DHM)を用いて、潰瘍性大腸炎患者の組織学的炎症を定量的に評価することを試みた。具体的には、内視鏡的に取得された21人のUC患者からの結腸および直腸粘膜生検サンプルをDHMを用いて分析し、サブエピテリアル層の屈折率を評価した。取得した組織の屈折率データを既存の組織学的スコアリングシステム(Nancyインデックス、Mayo内視鏡サブスコアなど)と相関させた。
主要な結果として、DHMで取得した組織の屈折率とNancyインデックスとの間に有意な相関が認められた(R2 = 0.251, p < 0.001)。さらに、組織の屈折率の値はMayo内視鏡サブスコアとも相関していた(R2 = 0.176, p < 0.001)。受信者動作特性(ROC)曲線の曲線下面積(AUC)は0.820であり、組織の屈折率が組織学的に活性のある潰瘍性大腸炎と寛解状態の潰瘍性大腸炎を区別するための信頼性の高いパラメータであることが確認された。組織の屈折率が1.3488を超える場合、組織学的に活性のある潰瘍性大腸炎を示す可能性が高い(感度84%、特異度72%)。Cobolt社製レーザー(波長532 nm)はデジタルホログラムの記録に使用され、サンプルの照明を安定化およびノイズを最小限に抑えることができた。

使用されたCoboltのレーザー
波長: 532 nm 06シリーズ