Mishra, A.; Inaam, R.; Okamoto, S.; Shibata, T.; Santra, T.S.; Nagai, M. “Visible Pulsed Laser-Assisted Selective Killing of Cancer Cells with PVP-Capped Plasmonic Gold Nanostars.” Micromachines 2023, 14, 1173. https://doi.org/10.3390/mi14061173
背景
癌は全世界で死亡原因の一つであり、その治療法の研究が急速に進められている。近年、ナノテクノロジーの進展により、癌治療に新たな戦略が導入されている。その中で、金ナノ粒子は生体適合性が高く、プラズモン特性を持つことから、バイオイメージングやバイオセンシング、光熱治療、光線力学療法、抗菌治療、薬物送達などの様々な生物医学的応用に利用されている。特に、金ナノスター(GNS)は、従来の金ナノ粒子よりも効率的で侵襲性の低い光熱治療に有望である。
ナノ粒子のプラズモン特性は、その形態や合成方法により大きく変化する。金ナノスターの多くの突起が「ライトニングロッド効果」を引き起こし、局所的な電磁場を大幅に強化する。この電磁場の強化により、強い光吸収特性と効果的なエネルギー変換が可能となり、腫瘍細胞の加熱に利用される。従来の光熱治療では連続波の赤外線レーザーが一般的に使用されるが、ナノ秒パルスレーザーの使用により、熱影響領域を減少させることができる。
さらに、PVP(ポリビニルピロリドン)で被覆された金ナノスターは、非生体適合性化学物質を使用せずに合成でき、細胞毒性を低減する。これにより、光熱治療のための金ナノ粒子の生物医学的応用が最適化される。
従来の問題点
しかし、従来の光熱治療は高出力レーザーを必要とし、冷却システムを統合する必要があるため、治療システムが複雑化していた。また、連続波レーザーの使用は、熱影響領域が広がり、周囲の正常細胞にも影響を及ぼす可能性があった。さらに、従来の金ナノ粒子の合成には、細胞毒性のある化学物質が使用されることが多く、生体適合性の点で問題があった。
解決方法と結果
そこで、本研究では、可視パルスレーザーとPVPで被覆された金ナノスターを組み合わせることで、より効率的で侵襲性の低い光熱治療法を提案した。金ナノスターは生体適合性の高い方法で合成され、FESEM、UV–可視分光法、XRD分析、粒子サイズ分析により特性評価が行われた。これにより、特定の部位での癌細胞の殺傷が可能となった。
実験では、癌細胞をガラス製ペトリ皿上に培養し、Cobolt社製ナノ秒パルスレーザーTorXS(532 nm、5 ns、1 kHz)を照射した。レーザー照射後、プロピジウムヨウ化(PI)染色を用いて細胞死を確認した。単一パルススポット照射および複数パルスレーザースキャン照射の有効性が評価され、照射フルエンスとナノ粒子濃度の増加に伴い、細胞死の効率が向上することが確認された。
この研究により、可視パルスレーザーとPVPで被覆された金ナノスターの組み合わせが、より効率的で侵襲性の低い光熱治療法として有望であることが示された。
使用されたCoboltのレーザー
