Hodaka Kurokawa, Keidai Wakamatsu, Shintaro Nakazato, Toshiharu Makino, Hiromitsu Kato, Yuhei Sekiguchi, Hideo Kosaka. “Coherent electric field control of orbital state of a neutral nitrogen-vacancy center.” Nature Communications, 2024. https://doi.org/10.1038/s41467-024-47973-3
背景
ダイヤモンドの色中心は、量子通信、量子計算、および量子センシングにおいて大きな応用可能性を持つため、注目を集めている。特にスピン自由度は、長いコヒーレンス時間(1秒以上)と優れた制御性を持つため、量子ビットとして利用されている。これにより、リモート色中心間のエンタングルメントの生成や電子状態の超低電力制御が可能となる。例えば、ゼロフォノンラインの周波数調整は、エンタングルメント生成に不可欠である。また、電場やひずみによる軌道自由度の結合はスピン自由度に対する磁場結合よりも強く、効率的な電子状態制御を実現する。スピン-軌道結合が強いため、ひずみを利用したスピン状態の効率的な制御も達成されている。これらの技術は、希釈冷却機内での操作に特に有利である。
中性窒素空孔中心(NV0)は、軌道状態のコヒーレントな制御において理想的なシステムとされている。NV0の基底状態の電気感受率はNV-の励起状態に匹敵し、軌道状態のコヒーレント制御も示されている。軌道制御に必要な電力はスピン制御に比べて三桁少なく、希釈冷却機で動作する超伝導量子ビットとのインターフェースとしての潜在力を示している。
従来の問題点
しかし、代表的な色中心では、NV-の光学的励起状態の寿命が短く(約10 ns)、IV族色中心の基底状態の分裂が大きいため、軌道状態のコヒーレントな制御を直接達成することは困難である。
解決方法と結果
そこで、本研究では、電場を用いたNV0の軌道状態の制御を提案し、その効果を実証した。具体的には、NV0の基底状態の電気感受率を調査し、軌道状態のコヒーレントな制御を示した。Rabi振動を実現するために必要な電力は数百マイクロワットであり、磁場を用いたスピン制御に必要な電力の三桁少ない。これにより、超低電力での電子状態制御が可能となり、希釈冷却機内での操作に特に有利であることが示された。
使用されたCoboltのレーザー

NV0の共鳴励起に使用され、効率的な軌道状態制御を実現した。