液晶を用いた色収差のない回折光学素子を用いた仮想現実ディスプレイ

Luo, Z., Li, Y., Semmen, J., Rao, Y., Wu, S.-T. “Achromatic diffractive liquid-crystal optics for virtual reality displays.” Light: Science & Applications 2023, 12:230. https://doi.org/10.1038/s41377-023-01254-8

背景

 液晶を用いた回折光学素子は、仮想現実(VR)や拡張現実(AR)などの次世代モバイルプラットフォームにおいて重要な要素である。これらの技術は、ユーザーがデジタル情報と直接的に対話することを可能にし、メタバース、空間コンピューティング、デジタルツインなどに広く応用されている。特に、スマート観光、スマート教育、スマートヘルスケア、スマート製造、スマート建設などで活用されている。
 大きく分けて屈折光学と回折光学を利用した光学素子がある。屈折光学素子は、光路差によって位相差を生じ、その形状は大きくなる。一方、回折光学素子は、同じ位相パターンを非常に薄い形状で実現できる。この特性は、VRヘッドセットなどの近眼ディスプレイにおいて、ユーザーの長時間の使用による快適性を向上させるために、超コンパクトな形状と軽量化が求められる現代のニーズに応えている。
 特に、Pancharatnam-Berry光学素子(PBOE)は、液晶を用いた回折光学素子の一種であり、幾何位相(パンカラトナム-ベリー位相)を利用して光の偏光状態を制御する。PBOEは、パターン化された半波板(HWP)として機能し、高い回折効率(ほぼ100%)、広い開口、軽量、薄型、簡単な製造プロセス、偏光選択性、および動的切り替えが可能であり、近眼ディスプレイへの応用が期待されている。

従来の問題点

 しかし、PBOEの欠点として、波長依存の色収差が生じる。従来の回折光学素子では、RGB各色の焦点距離が異なり、色収差を引き起こす。また、従来の色収差補正方法として、回折光学素子と屈折光学素子を組み合わせたシステムがあるが、この方法ではシステム全体が依然として大きく重くなる。さらに、メタサーフェスを使用する方法もあるが、開口サイズが小さく、製造プロセスが複雑であるため、実用化が進んでいない。

解決方法と結果

 そこで、本研究では、3つのPBOEフィルムを積層することによって、色収差を抑制した色収差のない液晶回折光学素子を提案した。各フィルムのスペクトル応答を適切に設計し、RGBの光の偏光状態を制御することで、色収差を補正する。この方法はシミュレーションおよび実験により検証された。
 実験では、レーザープロジェクターと有機ELディスプレイパネルの2種類の光エンジンを使用し、画像性能の大幅な改善が確認された。シミュレーションでは、従来の広帯域回折液晶レンズに比べて、横方向の色ずれが約100倍減少することが示された。この新しい方法により、回折光学素子の実用化が進み、VRヘッドセットなどの高度なディスプレイシステムへの応用が期待される。

Cobolt社製レーザー発振器の仕様

457nm, 200mWレーザー Twist