Changwon Jang, Kiseung Bang, Minseok Chae, Byoungho Lee, Douglas Lanman. “Waveguide holography for 3D augmented reality glasses.” Nature Communications, 2024, 15:66. https://doi.org/10.1038/s41467-023-44032-1
背景
拡張現実(AR)や仮想現実(VR)の次世代コンピューティングプラットフォームにおいて、ウェアラブルディスプレイ技術は極めて重要である。特に、拡張現実向けのシースルー型ディスプレイは、これまでに様々なアーキテクチャが提案されてきた。代表的なものとしては、バードバス型、湾曲ミラー型、網膜投影型、ピンミラー型ディスプレイが挙げられる。その中でも、導波路型(Waveguide)画像結合器は、コンパクトな形状と広い視野角を兼ね備えており、産業界でのARメガネの有力候補とされている。
導波路型ディスプレイは、光を全反射モードで導く薄い透明なスラブを利用し、出射瞳の複製を行うことで、ユーザーの目に映像を届ける。これにより、他の多くのアーキテクチャが直面する光束量(エンタンドゥ)の制約を克服し、広い視野角と十分なアイボックスを提供することが可能である。この特性により、導波路型ディスプレイは近年のARディスプレイ技術の中でも主導的な地位を占めている。
さらに、3Dホログラフィックディスプレイ技術は、光の波面を制御することで、現実的な視覚体験を提供する究極のディスプレイ技術と考えられている。ホログラフィックディスプレイは、視差調整や視力補正機能、広い色域など、多くの利点を持ち、産業界からも大きな注目を集めている。
従来の問題点
しかし、導波路型ディスプレイにはいくつかの問題点がある。まず、導波路内で光が複製される際に、光路の違いや収差が原因で「フォーカススプレッド効果」と呼ばれるゴーストノイズが発生し、自然な焦点合わせが困難になる。この問題は、ARにおいて現実的で快適な視覚体験を提供する上で、大きな障害となっている。
また、デュアルまたはマルチプレーンの導波路アーキテクチャが研究されているが、これらは形状が大きくなり、性能が低下する傾向にある。さらに、導波路型画像結合器の低効率性により、従来の光源(例:マイクロLED)では十分な輝度を実現することが難しい。レーザー光源を用いることで効率を向上させることは可能であるが、全反射伝搬中のコヒーレント光の相互作用によりアーティファクトが発生し、画質が劣化する。
解決方法と結果
そこで、本研究では、導波路型画像結合器とホログラフィックディスプレイの利点を組み合わせた「導波路ホログラフィー」と呼ばれるコンパクトなウェラブルディスプレイシステムを提案した。このアプローチは、従来の導波路型ディスプレイが抱える「フォーカススプレッド効果」を解決する点で画期的である。具体的には、導波路内での光のコヒーレント相互作用をモデル化し、空間光変調器を用いて入力波面を精密に制御することで、最終的な出力波面を高精度に形成する。
実験により、このシステムが3D画像の表示能力を持ち、エンタンドゥ拡張により広いアイボックスを提供できることを確認した。また、従来の導波路型ディスプレイの限界を超える高解像度を実現することも示された。

使用されたCoboltのレーザー

532 nm, 1500mWレーザー Samba を使用することで、空間光変調器によるフェーズシフトデジタルホログラフィーを実施した。