Le Wang, Haonan Lin, Yifan Zhu, Xiaowei Ge, Mingsheng Li, Jianing Liu, Fukai Chen, Meng Zhang, Ji-Xin Cheng. “Overtone Photothermal Microscopy for High-Resolution and High-Sensitivity Vibrational Imaging.” Nature Communications, 2024. https://doi.org/10.1038/s41467-024-49691-2
背景
近年、ナノ構造物や分子の詳細な化学的構造を明らかにするために、フォトサーマル顕微鏡技術が急速に発展している。これは、局所的な熱勾配を光学的に検出することで高感度の化学イメージングを可能にする手法である。特に、可視光フォトサーマル顕微鏡や中赤外フォトサーマル顕微鏡がこれまでに開発されてきた。可視光フォトサーマル顕微鏡は、金ナノ構造の場増強効果を利用し、単一の光吸収性ナノ粒子をターゲットにしたイメージングに優れており、非蛍光色素分子や半導体ナノ結晶の検出に成功している。一方、中赤外フォトサーマル顕微鏡は、化学情報が豊富な「フィンガープリント領域」を利用することで、物質や生命科学において多くの応用がなされている。例えば、単一金属ナノワイヤのファブリ・ペロー共振モードのマッピングや、ペロブスカイトの局所的なカチオン不均一性の解明などが挙げられる。さらに、細菌の代謝応答や細胞・組織内のタンパク質の構造マッピング、そして中赤外報告子を用いた酵素活性のマッピングなど、生命科学の分野でも重要な成果を上げている。これらの技術は、ナノスケールでの詳細な化学構造の解明において、重要な役割を果たしている。
従来の問題点
しかし、可視光フォトサーマル顕微鏡は化学的特異性が乏しく、中赤外フォトサーマル顕微鏡は水の強い吸収による光の減衰が大きく、厚い組織のイメージングには適していない。特に、中赤外領域では水の吸収が強いため、組織内部の光減衰が顕著であり、測定時のバックグラウンドノイズが増大し、精度が低下する。また、従来の中赤外フォトサーマル顕微鏡は、光学的制約により高NA(開口数)対物レンズの使用が困難であり、その結果、解像度が低下する問題もある。
解決方法と結果
そこで、本研究では、短波赤外(SWIR)領域での励起と可視光プローブを組み合わせた「オーバートーンフォトサーマル(OPT)顕微鏡」技術を提案し、これにより高い解像度と高い感度を同時に実現した。この技術は、C-H伸縮振動の2次オーバートーン領域でサンプルを励起し、局所的な熱レンズ効果を可視光で検出することで、化学特異性を高めながらも水の吸収による光減衰を避けることができる。実験では、SWIR波長をチューニングし、光走査により化学マッピングを行い、ポリマー構造や生細胞内のタンパク質および脂肪酸の深さ分解能を持つイメージングに成功した。さらに、マルチスケールの構造と化学組成の調査を可能にする大規模短波赤外イメージング技術との組み合わせにより、生物学的および材料科学の分野において有用な知見を提供することが期待される。
また、このOPT顕微鏡では、Cobolt社製の532 nmの連続波レーザー(Samba 532 nm)をプローブビームとして使用し、局所的な温度変化を検出することで、高い空間解像度と感度を実現している。このレーザーの使用により、信号のノイズレベルが大幅に低減され、精密な化学イメージングが可能となった。

使用したCoboltのレーザー
