窒素空孔センターを用いた全光学的核量子センシング

背景

 固体スピンを用いた量子センサーは、基礎科学、医療診断、ナビゲーションなど、さまざまな分野での応用が期待されている。特に、窒素-空孔(NV)センターを含むダイヤモンドは、単一の電子スピンを保持し、常温でも長いコヒーレンス時間を持つことから、量子センシングに非常に有望である。NVセンターは、緑色光による光励起によりスピン依存の赤色光を放出し、全光学的な電子スピンの読み出しが可能である。また、同時に光励起によって特定のスピン固有状態にポンプされることで、全光学的なスピンの初期化が実現される。これにより、従来の量子センサリング技術は、光による初期化、読み出し、および交流磁場(主にマイクロ波やラジオ周波数)によるスピンのコヒーレント制御を組み合わせて利用することができる。特に、NVセンターの電子スピンは、窒素原子の核スピンと自然に結合しており、この核スピンはさらに長いコヒーレンス時間を持つため、量子技術において興味深いリソースを提供する。これまでに、核スピンは量子通信やスピン読み出し技術の向上に利用されてきたが、磁気計測やジャイロスコープの分野においてもその潜在能力が注目されている。

従来の問題点

 しかし、これまでのスピンベースの量子センサリングは、スピンのコヒーレント制御に交流磁場を必要とし、これがセンサーの小型化やエネルギー効率、非侵襲性の面で大きな制約となっている。特に、交流磁場は測定対象に悪影響を与える可能性があり、統合型やポータブルなセンサーデバイスにおいては、その導入が電力消費の増加やシステム全体の複雑化、さらにはサイズやコストの増加を招いてしまう。

解決方法と結果

 そこで、本研究では、ダイヤモンド中のNVセンターを用いたコヒーレントな量子センシングにおいて、マイクロ波を使用しない純粋な光学的アプローチを提案した。この手法は、NVセンターの15N核スピンをセンサーリソースとして利用し、NVの励起状態のレベル交差におけるスピンダイナミクスを利用して、核スピンを量子重ね合わせ状態に光学的にポンプするものである。この手法により、単一スピンおよびスピン集合体のいずれにおいても、全光学的な自由誘導減衰(FID)測定が可能であることを実証した。この結果、厳しい環境下での磁気計測やジャイロスコープへの応用が可能な高密度量子センサーの実現に道を開いた。

使用されたCobolt社製レーザー

515nmレーザー MLD515