Xiao, Peng, Alexandros El Sachat, Emigdio Chávez Angel, Ryan C. Ng, Giorgos Nikoulis, Joseph Kioseoglou, Konstantinos Termentzidis, Clivia M. Sotomayor Torres, and Marianna Sledzinska. “MoS2 phononic crystals for advanced thermal management.” Science Advances 2024, 10, eadm8825. https://doi.org/10.1126/sciadv.adm8825
背景
近年、3D集積回路(IC)の発展により、従来の2Dチップに比べて電力密度が著しく向上し、その結果として熱管理の重要性が増している。この問題に対応するため、ナノスケールでの熱伝導制御が研究されており、その一環として2D材料の統合が有望視されている。層状のMoS2(モリブデン二硫化物)は、異方性の強い熱伝導率を持つことから、特に注目されている。MoS2は面内方向での熱伝導率が高く、縦方向では熱伝導を抑制できるため、効率的な熱拡散が可能である。この性質は、従来の銅などの3D等方性材料では達成できない特徴である。また、MoS2は熱電材料としての可能性も示しており、熱勾配から電力を生成することができる。このように、2D材料を用いた熱管理は、現在の電子デバイスの性能と信頼性を向上させるための新しい道を開いている。
※フォノニック結晶とは、音波や振動の伝播を制御するために設計された材料を意味する。これらの結晶は、規則的に配列された異なる物質の構造を持ち、その周期的な構造により特定の周波数帯域で音波や振動を遮断したり、反射したりする「バンドギャップ」を形成する。この性質は、音波を使ったフィルターやセンサー、振動を制御するためのデバイスなど、さまざまな応用に利用されている。
従来の問題点
しかし、MoS2のような2D材料における熱伝導率(κ)の低減を効率的に達成するには、ナノ構造を導入する必要がある。従来の研究では、欠陥や粒界を導入することで熱伝導率を低減させる手法が提案されているが、これにより材料の結晶構造が損なわれる可能性がある。また、SiやSiCといった3D材料においては、フォノンの平均自由行程(MFP)の短縮により熱伝導率を低減することが報告されているが、2D半導体材料における同様の研究は限られている。特に、MoS2における熱輸送のエンジニアリングについては、まだ十分な研究が行われていない。また、ナノパターニングによるMoS2のフォノニック結晶(PnC)の実現に関する実験的な研究が不足していることも課題である。
解決方法と結果
そこで、本研究では、MoS2膜に対してナノパターニングを施し、フォノン境界散乱を増加させることで、熱伝導率を効率的に低減させる方法を提案する。具体的には、フリースタンディングのMoS2膜に対して、Ga+イオンFIB(集束イオンビーム)を用いてナノパターニングを行い、周期的に穴を開けた構造を形成した。この結果、実験的に測定された熱伝導率は、アモルファス限界を下回る0.1W/mKという極めて低い値に達した。また、シミュレーション結果と実験結果が一致していることから、このアプローチの有効性が確認された。さらに、この手法を用いて、特定の方向に熱を誘導するナノ構造を実現し、MoS2を用いた熱絶縁リングや熱誘導チャネルの作製に成功した。この方法は、今後の3D ICや熱電デバイスにおける熱管理戦略として有望であることが示された。

使用されたCobolt社のレーザー
プローブ用の532 nmレーザーおよび405 nm加熱レーザーが使用された。このレーザーは、MoS2膜の温度分布を測定するために用いられ、ラマン分光法を通じて熱伝導率の評価に貢献した。

