Cui, X., Mylnikov, V., Johansson, P., Käll, M. “Synchronization of optically self-assembled nanorotors.” Sci. Adv. 10, eadn3485 (2024).
背景
ナノスケールでの自己組織化と操作は、非接触でナノエンティティを整列させるための魅力的なアプローチとして、近年注目を集めている。特に光学的な力を用いたナノ粒子の自己組織化は、物質の新しい形態を作り出す手法として急速に発展している。この手法は、局所的な表面プラズモン共鳴効果を利用することで、ナノ粒子に強い光学的な力とトルクを与え、微細な構造と新たな現象の研究を可能にする。例えば、金や銀のナノ粒子は、特定の条件下で自発的に様々な非平衡状態の2次元配置に自己組織化し、負の光学トルクや自己修復効果といった興味深い現象を示す。
さらに、光学的自己組織化の過程で発生する光子スピン角運動量の物質への移転により、高度に複雑な動力学が明らかになっており、光駆動ナノマシナリーの新しい応用に繋がる可能性がある。過去の研究では、球状ナノ粒子を用いた自己組織化が主流であったが、個々の粒子の向きが不明であるため、回転の自由度の探求は限られていた。
一方、金ナノロッド(Au NRs)のような非球形粒子は、光学的異方性が顕著であり、円偏光レーザー光により捕捉された際に水中で数十キロヘルツの速度で回転することができる。このため、これらの粒子は効率的な回転ナノモーターとして機能する可能性がある。
従来の問題点
しかし、これまでの研究は主に球状ナノ粒子に焦点を当てており、個々の粒子の向きの特定が難しいため、回転の自由度に関する探求が限られていた。また、ナノスケールでの機械的な振動子の同期化を達成することは、極小の動的システムを正確に構築および組み立てることの難しさや、ナノスケールで不可避の熱拡散が振動子の運動をランダム化し、位相のズレを引き起こすため、非常に困難である。さらに、光学的結合を通じた回転の同期化は、これまでゆっくりと動く微粒子についてのみ観察されており、高アスペクト比の誘電体ナノワイヤについては理論的に予測されているに過ぎなかった。
解決方法と結果
そこで、本研究では、プラズモニックな金ナノロッド(Au NRs)の光学的結合に基づく新しいアプローチを採用し、これらのナノロッドが円偏光レーザー光の影響下で自己組織化し、高速で回転することによる同期化現象を詳細に調査した。ストロボスコープイメージングと確率シミュレーションを用いて、光学的に結合された小さなナノロータークラスター内での同期化を観察し、熱拡散の影響が存在するにもかかわらず、高度な同期化が達成されることを示した。
この研究では、直径約2.5μmの円偏光レーザー光スポットを使用し、金ナノロッドのクラスターがその共通の質量中心の周りで剛体として回転する様子を観察した。また、ナノロッドの回転が光学的結合によってどのように影響を受けるかを解明するため、運動方程式を数値的に解き、複雑な光学的力の効果をモデル化した。結果として、回転同期が光学的結合の強さと光の角運動量の移転によって促進されることが明らかになった。

使用されたCoboltのレーザー
本研究では、Cobolt社製のレーザー(1064nm, 2W)を使用して、ナノ粒子を捕捉し、光学的な角運動量を提供する目的で使用した。このレーザーは、円偏光のガウス分布を持つ光束を生成し、サンプル内のナノ粒子の精密な操作を可能にする仕様を有している。
