Gao, Y. and Cao, L.
“Iterative projection meets sparsity regularization: towards practical single-shot quantitative phase imaging with in-line holography.” Light: Advanced Manufacturing (2023) 4:6. https://doi.org/10.37188/lam.2023.006
背景
ホログラフィーは、光学的位相情報にアクセスするための技術であり、1947年にガボールによって発明された。当初、ホログラフィーは主に光学分野での画像記録技術として注目されたが、近年では、定量的位相イメージング(QPI)やデジタルホログラフィーを中心に研究が進んでいる。この技術は、特に生物医学や材料科学において、透明な試料の構造や動態を非侵襲的に観察できるため、急速に発展してきた。
ホログラフィーの一つの重要な特徴は、光の振幅だけでなく、位相情報も取得できる点にある。光の位相情報は、物質の屈折率や厚さの分布に関連するため、これを取得することで物体の三次元的な構造を明らかにすることが可能である。しかし、光学周波数での電磁波の振動は非常に高速であるため、通常の検出装置では位相情報を直接記録できない。このため、ホログラフィーでは「位相再生」のプロセスが重要な課題となっている。
従来のホログラフィーにおける位相再生手法の一つに「反復投影法」がある。この手法は、光場の物理的知識に基づき、非負制約やサポート制約、吸収制約といった簡単で効果的な物理制約を利用する。これらの制約は、位相情報の曖昧さを解消するために有効であり、特にシングルショットでの位相再生において重要な役割を果たしている。
さらに近年では、圧縮センシング技術の発展により、信号のスパース性(疎性)を利用した圧縮位相再生法が登場した。これは、情報理論的な限界を超えて位相を復元する可能性を持ち、シングルショットでの位相再生を実現できる。スパース性を利用した正則化技術により、データの多様性を保ちながらも位相再生の精度を向上させることが可能である。このような背景から、反復投影法とスパース正則化を組み合わせたアプローチが、多くの応用において期待されている。
※ここでいうインラインとは光学やホログラフィーにおいて、光源、物体、検出器が一直線上に配置される構造を指す。
※スパース正則化(sparse regularization)は、データや信号を処理する際に、そのスパース性(疎性)を利用して、不要な情報を排除し、重要な特徴を抽出する手法
従来の問題点
しかし、反復投影法は、シンプルな物理制約に頼るため、複雑なシーンの解析においてはその限界が顕著である。特に、シングルショットでの位相再生においては、計測データが限られているため、位相再生の品質が劣化する。また、スパース正則化技術は、スパース性に依存するため、シーンに依存して結果が大きく変動し、パラメータの調整が必要となる。このため、正確な位相再生のためには、手動でのパラメータ調整がしばしば必要であり、実用性に欠ける側面がある。
解決方法と結果
そこで、本研究では、物理制約とスパース正則化の両方を組み合わせた圧縮位相再生フレームワークを提案してた。具体的には、よく知られた吸収制約やサポート制約に加え、勾配領域におけるスパース性を活用する「制約付き複素全変動(CCTV)」モデルを導入した。このモデルは、物理的に妥当な制約を維持しながら、高品質なシングルショット定量位相イメージングを可能にするものである。
提案されたCCTVモデルは、反復的な近接勾配法を用いて解決され、非滑らかな正則化逆問題に対する効率的なアルゴリズムが開発された。さらに、理論的な解析により、事前に指定されたパラメータでアルゴリズムの収束が保証されており、手動でのパラメータ調整を必要としない。また、シミュレーションおよび実験結果において、CCTVモデルが複雑な自然シーンを物理的に妥当な制約の下で高精度に再現できることが示された。

使用されたCoboltのレーザー
実験では、660 nmのCobolt Flamenco 300レーザーを使用し、インラインホログラフィーの光学システムを構築して定量的な位相イメージングを行った。このシステムにより、単一の強度画像から高精度な位相情報を取得できることが確認された。
