Qing Xia, Zhongyue Guo, Haonan Zong, Scott Seitz, Celalettin Yurdakul, M. Selim Ünlü, Le Wang, John H. Connor, Ji-Xin Cheng, “Single virus fingerprinting by widefield interferometric defocus-enhanced mid-infrared photothermal microscopy,” Nature Communications, 2023, 14, 6655. https://doi.org/10.1038/s41467-023-42439-4
背景
ウイルス感染症の診断には、ウイルスの構成成分であるタンパク質や核酸を特定することが不可欠である。特に、核酸や表面タンパク質を標的とした従来の診断法は、ウイルス感染の早期発見に重要な役割を果たしてきた。これらの方法は、PCR(ポリメラーゼ連鎖反応)による増幅技術や抗原検出を活用し、高精度なウイルス検出を可能にしている。さらに、ラベルフリー技術の進展により、ウイルスの光学的特性や形態の特徴を解析することが可能となり、特に干渉法を利用したイメージング技術がウイルスの検出と追跡に有効であることが示されている。
中赤外フォトサーマル(MIP)顕微鏡は、赤外光の吸収を利用して化学的選択性を持つイメージングを行う技術であり、広くバイオマテリアルの解析に使用されてきた。MIPは可視光の回折限界を超えた解像度を持ち、細胞や細菌、ウイルスといった微細構造の化学的情報を取得することができる。この技術は、従来の赤外吸収法やラマン散乱法と比べてはるかに高い感度とスループットを持つため、ウイルス構造の詳細な化学成分を分析する上で大きな長所がある。
技術の問題点
しかし、従来のMIP顕微鏡はスキャン方式に依存しているため、取得に長い時間がかかり、スループットが低い問題があった。また、単一のウイルス粒子の化学的解析を行うには十分な感度を確保することが難しく、広視野でのウイルス検出や正確なスペクトル解析には課題が残されていた。さらに、ウイルスの化学的内容物を分析するには、従来の光学干渉法では分子情報の取得が不十分であった。
解決方法と結果
そこで、本研究では、広視野干渉法を強化した中赤外フォトサーマル顕微鏡(WIDE-MIP)を開発し、単一ウイルスの高スループット指紋解析を実現した。この技術では、干渉によって散乱光の信号を強化し、さらに焦点位置を調整することでMIPコントラストを大幅に向上させた。これにより、従来のスキャン方式のMIPに比べて3桁のスループット向上を達成し、100nmサイズのポリメチルメタクリレート(PMMA)粒子の検出に成功した。
実験では、単一のワクシニアウイルス(VACV)およびベシキュラーストマチチスウイルス(VSV)の指紋スペクトルを取得し、ウイルスタンパク質と核酸の化学的特徴を特定することができた。特に、DNAウイルスとRNAウイルスの核酸の違いを反映するサイミンおよびウラシルの残基振動を検出し、これらのウイルスの化学指紋を明確に識別した。また、広視野MIPは、ウイルスのタンパク質二次構造のβシート成分が豊富であることも示した。また、Cobolt社のレーザー発振器(波長520 nm)は、蛍光イメージングのための励起光源として使用された。

使用されたCoboltのレーザー

強度変調することでパルス幅129 nsにし、蛍光画像取得において十分な信号強度を得ることを可能にしている。