ブレイズド斜平面顕微鏡による脳全体の活動スケール不変性の発見

Hoffmann, M., Henninger, J., Veith, J., Richter, L., Judkewitz, B. “Blazed oblique plane microscopy reveals scale-invariant inference of brain-wide population activity.” Nature Communications 2023, 14, 8019. https://doi.org/10.1038/s41467-023-43741-x

背景

 近年、脳の活動をマクロからミクロまで理解することが神経科学において重要であるとされている。特に、脳の構造は非常に複雑であり、局所的な神経活動を把握することと、脳全体の活動を把握することは別々の技術を必要とする。そのため、従来技術としてマクロスケールの技術(例えば、fMRI)とミクロスケールの技術(例えば、多光子カルシウムイメージングやマルチ電極記録)が開発され、脳活動の理解が進められてきた。
 fMRIなどのマクロスケールイメージング技術により、脳全体の機能的ネットワークや各領域の役割を把握することが可能である一方、多光子カルシウムイメージングなどは個々の細胞レベルでの活動を詳細に観察することができる。これにより、局所的な脳回路の高い多様性や、近隣の細胞間での異なる機能的特性を明らかにすることができた。さらに、光シート顕微鏡はゼブラフィッシュ幼虫などの透明なサンプルに対して有用で、深部組織の高速ボリュームイメージングを可能にしている。このように、従来の技術は、脳の各スケールに対応した詳細なデータを取得するために非常に有効であった。

従来の問題点

 しかし、従来のマクロスケールおよびミクロスケールの技術では、それぞれの観測領域が限られており、全脳レベルでかつ細胞分解能で脳活動を同時に観察することは難しかった。また、fMRIは複数の細胞の平均的な活動を一つの値として表現するため、個々の細胞の活動を正確に把握することができず、多光子顕微鏡では観測可能な視野が限られているため、全脳活動の全体像を把握することが困難であった。さらに、脳のサイズや不透明性によっては、光シート顕微鏡を適用することも制限があった。このような技術的制約のため、脳の全体的な活動と局所的な細胞活動の関係を統一的に理解することは、依然として大きな挑戦となっていた。

解決方法と結果

 そこで、本研究では、従来の技術の制約を克服するために「ブレイズド斜平面顕微鏡(Blazed Oblique Plane Microscopy, BOPM)」を開発した。この技術により、脳全体の細胞分解能での神経活動を同時に記録することが可能となった。BOPMでは、サンプル内の斜めの平面を励起し、同一の対物レンズを使用して蛍光を収集することで、広い視野と高い分解能を両立することができた。また、光ファイバーを用いたフェースプレートを組み合わせることで、斜平面を効率的に再イメージングする手法を取り入れた。
 この技術を用いて、成体のDanionella cerebrum(透明な脳を持つ小型魚類)の脳全体の活動を記録し、スケール不変の神経活動の予測を行うことに成功した。実験結果から、局所的な細胞活動とマクロスケールのボクセル活動の間に強い相関が見られ、両者が類似した予測能力を持つことが示された。この結果は、従来のマクロスケール技術が必ずしもミクロスケール技術に劣っているわけではなく、それぞれのスケールが脳全体の活動を予測するために有効であることを示している。また、この技術を用いることで、脳全体の細胞活動を記録しながら、その活動の時間的および空間的相関を評価することが可能となり、脳の動的なネットワーク構造の理解が進展することが期待される。
 Cobolt社の488 nmレーザーは、励起光源として使用され、光シートを形成するために用いられた。このレーザーは高速の蛍光記録を可能にし、脳内での広範囲にわたる神経活動の観測をサポートした。また、CNI製の532 nmレーザーもシステムに組み込まれており、光ファイバーを介してシステム内に結合されて、光伝達効率を最適化するために利用されている。この532 nmレーザーは、ブレイズド斜平面顕微鏡の光学的なコリメーションと中間イメージングに重要な役割を果たしている。

使用されたCoboltのレーザー

488nmレーザー MLD488