Vladimir Lomonosov, Thomas M. R. Wayman, Elizabeth R. Hopper, Yurii P. Ivanov, Giorgio Divitini, Emilie Ringe. “Plasmonic magnesium nanoparticles decorated with palladium catalyze thermal and light-driven hydrogenation of acetylene.” Nanoscale, 2023, 15, 7420-7429. https://doi.org/10.1039/d3nr00745f
背景
ナノ粒子を用いた触媒は、従来からその表面積の大きさとナノ材料特有の特性により、異種触媒反応研究で注目されてきた。金属ナノ粒子の表面では、自由電子の振動が局所表面プラズモン共鳴(LSPR)を引き起こし、電磁場の増強をもたらす。この増強された電磁場は、化学反応を促進するためのエネルギーを供給する能力を持つ。特に、光誘起のプラズモン共鳴によって生成される高エネルギーの電子および熱の生成は、分子の活性化や反応促進に役立つことが知られている。
これまでの研究では、プラズモン強化触媒としてアンテナ-リアクターシステムが多く採用されてきた。このシステムは、プラズモン性を持つコア(アンテナ)と、触媒作用を発揮するナノ粒子(リアクター)からなる。例えば、アルミニウムナノ粒子を用いたシステムは、メチレンブルーやローダミンBの分解、二酸化炭素の還元、メタンのドライリフォーミングなど、さまざまな反応で優れた光触媒性能を示している。アルミニウムに代わるプラズモン性金属として、マグネシウム(Mg)は、その紫外線から近赤外線にわたる広範囲な波長でLSPRを持ち、優れた共鳴品質を提供することから注目されている。
本研究では、マグネシウムナノ粒子にパラジウムを部分的に置換して生成された二元金属ナノ粒子(Pd-Mg)を使用し、選択的アセチレン水素化の触媒としての特性を調査した。パラジウムは従来から水素化反応における触媒として広く利用されており、他の金属と組み合わせることで、エチレンへの選択性を向上させることができるとされている。
従来の問題点
しかし、従来の単金属パラジウム触媒では、アセチレンの水素化においてエチレンへの選択性が低く、過剰水素化によってエタンが生成されやすい問題がある。また、触媒の活性を高めるために貴金属を大量に使用する必要があり、コスト面や資源の持続可能性に課題があった。プラズモン性金属として一般的なアルミニウムも、特定の反応においてはその性能が限られている場合がある。さらに、光熱効果による反応促進のみに依存したアプローチでは、反応の選択性や効率を十分に制御することが難しい。
解決方法と結果
そこで、本研究では、Mgナノ粒子にパラジウムを部分的に置換したPd-Mgナノ構造を作製し、選択的アセチレン水素化における熱的および光誘起触媒としての性能を評価した。Pd-Mgナノ構造は、室温でのレーザー照射により、暗条件と比較して最大40倍の初期反応速度の向上が観察された。また、光励起下では見かけの活性化エネルギーが約2倍低減し、プラズモン励起による触媒活性の向上が示唆された。
実験では、532 nm、633 nm、785 nmの3種類の波長のレーザーを使用し、それぞれの波長での触媒性能の違いを評価した。特に785 nmのレーザー照射下で最も高いエチレン選択性が得られ、波長依存の反応速度の変化が観察された。この結果は、Mgナノ粒子の広範な光吸収特性と一致しており、異なる波長でのプラズモン励起が反応メカニズムに影響を与えることを示唆している。
熱的触媒反応においても、Pd-Mg触媒は60°Cでアセチレン完全転化時に55%のエチレン選択性を示し、従来の単一パラジウム触媒よりも優れた性能を示した。この性能向上は、Mgコアがパラジウムの凝集を抑制し、分散の良い小さなパラジウムナノ粒子を生成することに起因すると考えられる。
本研究は、資源効率の高いプラズモン触媒の設計に新たな道を開き、工業的に重要な選択的水素化プロセスの持続可能な触媒技術への応用可能性を示した。

使用したCobolt社製レーザーの仕様

532nmレーザー Samba