マイクロ流体チップ内のヘリンボーン溝によるインラインラマンイメージング

W. J. Niels Klement, Elia Savino, Wesley R. Browne, Elisabeth Verpoorte, “In-line Raman imaging of mixing by herringbone grooves in microfluidic channels”, Lab on a Chip, 2024, 24, 3498-3507.

背景

 マイクロ流体デバイスは、化学および生物学において広く利用されており、光化学フローレアクターや臓器チップ(Organ-on-a-chip)、(生体)分析化学、細胞選別、Covid-19検出などの多様な応用がある。特に、化学反応を行う際には、分子試薬が反応するために衝突する必要があるため、流体の効率的な混合が重要である。単純なマイクロチャネル内では、使用する流速の範囲内で流体は純粋に層流である。層流では、隣接するストリーム間の混合は拡散に依存する。拡散に依存する混合では、反応が完了するまでの全体の時間(すなわち、チャネル内の滞留時間)はチャネルの寸法によって決まる。これにより、許容できないほど長いチャネルや、望ましいスループットを得るには低すぎる流速が必要となることがある。高い反応速度定数を持つ反応においては、物質移動が拡散に依存するため、チャネル幅全体にわたって観察される反応速度の大きな変動が生じる可能性がある。

流体の混合は常に分子レベルでは拡散に基づく受動的なプロセスであるが、対流は溶液ストリーム間の接触面積を大幅に増加させることで観察される混合速度を上昇させる。これにより、反応種が拡散して反応するために通過しなければならない経路長が短縮される。層流を乱し、チャオティックな流れのプロファイルを作り出す溝などの構造(静的混合要素)を導入することは、マイクロチャネル内の反応速度および混合時間の勾配を最小限に抑えるための確立されたアプローチである。チャオティックマイクロミキサーのデザインには多くの形状とサイズがあり、それぞれに独自の特性がある。これらの設計の1つである傾斜ヘリンボーンミキサー(SHM)は、非常に広範な流速範囲で高い混合速度を達成できるため、多くの応用例がある。

1) Organ-on-a-chip 微細加工技術を用いて作られた生体の臓器の機能を模倣するための微小デバイス 

 

従来の問題点

 しかし、単純なマイクロチャネルでは、流体が層流であるため、混合が拡散に依存し、効率が低いという問題がある。さらに、従来の点ベースのラマンイメージングでは、各ピクセルを連続して読み取る必要があり、速度が遅くなるという制約がある。

解決方法と結果

 そこで、本研究では、ラインフォーカスレーザーを用いたラマン分光計を使用して、リアルタイムで空間的に分解されたスペクトルデータを取得し、サンプルやレーザーを移動させずにラマンイメージングを行った。この方法により、溝構造によって誘導される混合を特性化し、化学的に同等の混和性溶媒ストリームの流れを特定できた。また、共鳴増強ラマン散乱と高速化学反応を組み合わせて、チャネル内の溶媒ストリーム間の効果的な混合の開始を正確に特定することができた。Cobolt社製のレーザーは、473 nmの波長で35 mWの出力を持ち、PDMS/ガラスマイクロ流体デバイスでの背景発光を避けるために使用された。この方法により、sCMOS検出器を使用してスペクトルオーバーラップやシャッタリングなしで迅速な読み取りを実現し、マイクロ流体チャネル内の混合などのプロセスをリアルタイムでイメージングできた。

使用されたCoboltのレーザー

波長473nm Blues