単結晶ダイヤモンドプレートの分光法とプロトンビームによるNVセンターの作成

Marat Eseev, Dmitry Makarov, Aleksey Kostin, Igor Podoylov, Anastasia Kharlamova, Aleksandr Ladvischenko, Ksenia Makarova, Alexander Yelisseyev, Victor Vins, Dmitrii Kasatov, Iaroslav Kolesnikov, Sergey Savinov, Ivan M. Shchudlo, Evgeniia Sokolova, Sergey Taskaev, Roman Babunts. “Spectroscopy of Single Crystal Diamond Plates Modified by Proton Beams to Create NV Centers.” Preprints.org, 18 October 2023. https://doi.org/10.20944/preprints202310.1058.v1

背景

 ダイヤモンドは、その立方体の結晶構造と炭素原子間の強力な共有結合、そして記録的な高原子密度により、最も有望なワイドギャップ半導体とされている。この独特な特性と高技術用途の可能性は、結晶格子内のさまざまな種類の欠陥の存在と濃度によって決定される。特に、窒素-空孔(NV)センターは量子技術での応用が注目されており、これらのセンターはダイヤモンドプレートを高エネルギー粒子で照射し、800℃以上でアニーリングすることで形成される。NVセンターは、室温でさえも光、磁場、電場、マイクロ波によって電子スピンを操作することが可能で、量子情報の記録が可能である。このような特性により、NVセンターは量子計算、センシング、イメージングなど多岐にわたる応用が期待される。さらに、ダイヤモンドは光検出磁気共鳴(ODMR)を利用して内部の欠陥を調査することができる。ODMRはダイヤモンドのスピン状態の磁気共鳴信号を光によって検出する方法であり、特にNVセンターのスピン状態を調べるのに有効である。また、赤外線分光法(IR分光法)はダイヤモンド内の欠陥の分布を調べるために使用される。この方法により、ダイヤモンドの成長過程や加工過程で生じる内部の機械的応力の分布も評価できる。

従来の問題点

 しかし、電子照射によるダイヤモンドプレートの欠陥生成は、最も一般的かつ単純な方法であるが、照射後のアニーリングでNVセンターの濃度を高めることができる一方で、欠陥の層状構造を作成することが難しい。一方、プロトン照射は、層状の欠陥構造を作成できる可能性があるが、電子照射に比べて欠陥の濃度を高くすることができない。このため、プロトン照射による合成ダイヤモンドプレートのNVセンターの研究はまだ十分に進んでおらず、さらなる研究が必要とされている。

解決方法と実験結果

 そこで、本研究では、プロトン照射を用いて単結晶ダイヤモンドプレートにNVセンターを作製し、その特性を評価することを目的とした。具体的には、ダイヤモンドプレートをプロトンビームで照射し、900℃でアニーリングを行った。その結果、IR分光法により、照射前後の窒素含有欠陥の分布を明らかにした。特に、プロトン照射とアニーリングの組み合わせにより、中心部での欠陥濃度が顕著に低下し、NVセンターへの転換が確認された。

さらに、偏光顕微鏡を用いて内部応力の分布を評価したところ、照射とアニーリング後に内部応力がより均一になり、局所的な応力が低減されたことが示された。また、ODMR法を用いてNVセンターの磁気特性を調査した結果、高照射量のプレートで顕著なODMR信号が観測され、NVセンターの濃度が高いことが示唆された。

以上の結果から、プロトン照射とアニーリングの組み合わせにより、ダイヤモンドプレートに高濃度のNVセンターを効率的に作製できることが示された。この手法は、将来的に量子デバイスの開発に貢献する可能性がある。

Cobolt社のレーザー発振器の仕様

本研究で使用したCobolt Sambaレーザーは、波長532nmの固体レーザーであり、光学的に検出可能な磁気共鳴(ODMR)の実験に用いられた。このレーザーは、ダイヤモンドプレートに光を照射し、NVセンターからの蛍光を励起するために使用された。