非侵襲的な中赤外線オプトアコースティック信号による血糖値測定

Nasire Uluç, Sarah Glasl, Francesca Gasparin, Tao Yuan, Hailong He, Dominik Jüstel, Miguel A. Pleitez, Vasilis Ntziachristos. “Non-invasive measurements of blood glucose levels by time-gating mid-infrared optoacoustic signals.” Nature Metabolism, Volume 6, April 2024, 678–686.

背景

 従来の非侵襲的血糖測定技術は、指先を針で刺す必要がなく、糖尿病管理において魅力的な代替手段であることから、近年急速に研究が進められている。これらの技術は、間質液中のグルコース濃度を間接的に測定することで、患者の負担を軽減し、持続的な血糖モニタリングを可能にしている。特に、Libre StyleやDexcom G6/G7のようなウェアラブルパッチ上の電気化学的マイクロニードルは、痛みを伴わない測定を提供し、血糖管理の精度向上に貢献している。また、テラヘルツ分光法やラマン散乱分光法は、特定の波長域でのグルコースの吸収スペクトルや振動スペクトルを解析することで、高感度な測定が可能である。さらに、中赤外線吸収分光法も、光学的、オプトアコースティック、熱的検出を通じて、グルコース測定の精度向上に寄与している。

従来の問題点

 しかし、従来の非侵襲的血糖測定技術は、血中ではなく間質液中のグルコース濃度を測定するため、精度に限界がある。間質液中のグルコースは血液からの拡散に時間がかかり、濃度も低いため、リアルタイムでの血糖変動を正確に反映できない。また、間質液のpH値や体液量の変動が、グルコース測定の精度に影響を与えることがある。さらに、マイクロニードル電極の侵襲性が、皮膚の刺激や感染症のリスクを伴うため、完全な非侵襲的測定技術の開発が求められている。

解決方法と結果

 そこで、本研究では、新しいバイオセンサーである深度ゲート中赤外線オプトアコースティックセンサー(DIROS)を導入することによって、これらの問題を解決した。DIROSは、時間ゲーティングを用いて、中赤外線オプトアコースティック信号を皮膚の深部で選択的に局在させ、表皮の干渉を最小限に抑えることで、血液中のグルコースを非侵襲的に検出することを可能にした。マウスの耳を用いた実験では、DIROSは従来の間質液中のグルコース測定と比較して、精度が向上することが示された。この技術は、血管が豊富な皮膚の領域での測定を可能にし、血糖値の変動をリアルタイムで正確に捉えることができる。また、表皮の非特異的な吸収による干渉を排除することで、測定の信頼性と再現性が向上した。これにより、DIROSは、現在の非侵襲的血糖測定技術の主要な制限を克服する、トランスレーショナルの高いアプローチとして位置づけられることが分かった。

使用されたCoboltのレーザー

532nmパルスレーザー Tor
532nmパルスレーザー Tor

血管構造の検証や深度の確認に使用された。