Wang, L.-M., Kim, J., Han, K.Y. “Highly sensitive volumetric single-molecule imaging.” Nanophotonics 2024, 13(20), 3805–3814. https://doi.org/10.1515/nanoph-2024-0152
背景
生細胞や組織内部の構造および動態を明らかにするために、三次元的な観察が可能な体積イメージング技術は、生物学的研究において不可欠である。特に、時空間的な情報を同時に取得できる高速体積イメージングは、細胞内小器官の構造解析やダイナミクスの解明に重要な役割を果たしている。こうした背景のもと、従来から様々な焦点移動技術が発展してきた。例えば、リモートフォーカシング、可変焦点レンズ、変形ミラーなどによって軸方向スキャンの高速化が試みられている。また、横方向のスキャンを軸方向の情報取得に変換する方法や、多視点投影法、さらには多焦点イメージング法やライトフィールド顕微鏡などが開発されており、これらは高速性と三次元性を両立させた技術である。さらに、光学的な点広がり関数(PSF)の工学的設計によって焦点深度を拡張するアプローチも注目されている。例えば、空間光変調器(SLM)を用いた2.5D位相マスクは、約5μmの深さにわたって均一な軸方向プロファイルを実現し、側方分解能の劣化も最小限に抑えられる。この手法は高い検出効率と収差補正機能を備え、定量的かつ高分解能な体積イメージングに適している。
また、”layer cake”と呼ばれる多層構造のガラスを用いる方法も提案されている。これは蛍光の波面の干渉性を崩すことにより、サイドローブを抑制したベッセル様ビームを形成し、焦点深度の5倍程度の拡張を可能にしている。この構造は高い透過効率を有し、簡便に導入可能であるため、実用性に優れる。これらの技術は、単一ショットでのRNA FISH法や、高速免疫蛍光イメージング、さらには生細胞の長時間観察にも応用されている。
従来技術の問題点
しかし、従来の2.5D顕微鏡(2.5DM)は、すべての蛍光信号を二次元平面上に投影するため、焦点面外の背景も同時に記録されてしまい、信号対雑音比(SBR)が低下するという問題点がある。特に、単一分子のような蛍光強度が非常に弱い試料に対しては、背景の影響が大きくなり、復元処理に誤差が生じやすい。既存の画像復元法として、デコンボリューションや深層学習ベースの手法があるが、これらも低蛍光強度試料に対しては安定性に欠ける。さらに、多色蛍光観察において、従来の位相板は波長依存性が高く、それぞれの蛍光色素に対して個別の設計が必要となるため、汎用性に欠ける。また、単一分子局在顕微鏡(SMLM)や単一粒子トラッキング(SPT)への応用実績は少なく、特に生細胞中での三次元的な長時間観察には制約があった。焦点深度の限界により、観察対象が焦点外に移動しやすく、追跡可能な時間が制限されることも課題となっていた。
解決方法の提案と結果
そこで、本研究では、励起光として高傾斜ラミネート光シート(HILO)を導入し、検出経路には“layer cake”構造を組み合わせた2.5D顕微鏡(2.5DM)を提案することによって、上記の課題を解決した。この方法により、従来のエピ照明に比べて焦点外の背景を約2分の1に低減し、SBRを向上させた。特に、HILO照明では約80度の傾斜角を持つ薄い照射層を用いることで、広い照射範囲と浅い厚みを両立させ、背景光の混入を抑制した。これにより、2.5DMを用いて、従来法の約4.4倍の数の粒子を検出可能となり、単一平面の観察では見逃されていた構造情報を得ることに成功した。また、異なる波長の蛍光色素に対しても、layer cakeの非干渉性による波長非依存性が有効であり、波長変化による形状の変化は最小限に抑えられた。これにより、AF488、CF568、AF647といった3色の免疫蛍光観察において、単一ショットで広範囲の情報を取得し、従来のzスタック方式に匹敵する画像が得られた。しかも、取得時間は1500 msから150 msへと大幅に短縮された。さらに、SMLMにおいても、layer cakeを用いた2.5DMにより、zスキャンを行わずに体積情報を投影した超解像画像を再構成できた。従来法との比較では、局在精度に若干の差が見られたものの(従来: 63 nm, 2.5DM: 77 nm)、三次元情報を迅速に取得できる点で優位性があった。Cramér-Rao下限の解析でも、layer cakeは広いz範囲にわたり安定した精度を維持し、背景ノイズの影響にも耐性を示した。最後に、単一粒子トラッキングにおいては、layer cakeにより焦点深度が拡張されたことで、追跡可能な時間が従来の約4.4倍に延長された。U2OS細胞内での観察では、endosome内での回転運動や方向性を持った移動など、多様な動態を明瞭に捉えることができた。
論文で使用されたCoboltのレーザー
本研究において使用されたCobolt社製のレーザーは、488 nm、561 nm、638 nm、および高出力の640 nmレーザーであり、単一分子観察や多色蛍光イメージングのために用いられた。特に、640 nmレーザー(Cobolt Bolero)はSMLMにおける強励起用として利用された。また、405 nmの活性化用レーザーもCobolt社製であり、単一分子のスパースな活性化を制御するためにファンクションジェネレータと組み合わせて使用された。