Kasper, J. B.; Vicens, L.; de Roo, C. M.; Hage, R.; Costas, M.; Browne, W. R.
“Reversible Deactivation of Manganese Catalysts in Alkene Oxidation and H₂O₂ Disproportionation.” ACS Catal. 2023, 13, 6403–6415. https://doi.org/10.1021/acscatal.3c00866
背景
アルケンの酸化反応は、医薬品やファインケミカルの合成において重要な基本反応であり、その効率化と持続可能性が近年注目されている。中でも過酸化水素(H₂O₂)を酸化剤とし、水を副生成物とする反応は、原子効率や環境負荷の観点から優れている。このような背景から、マンガンのような希少・有毒でない遷移金属を用いた酸化触媒が注目されてきた。ピリジルアミン型配位子を有するマンガン(II)錯体は、エポキシ化などにおいて高トーナンバ(TON)・高エナンチオ選択性を示す。特に、ピリジル環に電子供与基を導入することで選択性が向上し、触媒の酸化状態や反応性に関する構造–活性相関も明らかになっている。
従来技術の問題点
しかし、H₂O₂を用いるアルケン酸化反応では、不均化反応(水と酸素への分解)が競合して進行し、酸化剤の効率が低下する。また、反応中に触媒活性が低下することが報告されており、その要因として、配位子の分解や高酸化状態の休止種の蓄積が疑われている。さらに、反応条件が連続的H₂O₂添加や低温であるため、配位子の電子効果がTOFに与える真の影響が把握しにくい。
解決方法の提案と結果
そこで、本研究では、RPDP型配位子をもつマンガン錯体(HPDP-MnおよびMeOPDP-Mn)を用い、ラマン分光法とUV/vis吸収スペクトルを併用して反応中の挙動を追跡した。H₂O₂の添加直後に高いTOF(10 s⁻¹以上)を示すが、時間とともに活性が低下すること、また、H₂O₂不均化とアルケン酸化が同一触媒によって進行することが明らかとなった。MeOPDP-Mnは高い酸化剤効率と低い失活傾向を示し、最大TONは5000であった。さらに、可逆的な休止状態としてMnIIIやMnIV種が生成することがUV/visとEPRにより確認された。Cobolt社製355 nmレーザーは、これら中間体の共鳴ラマンバンドの検出に用いられた。
論文で使用されたCoboltの355nmレーザー
