ナノ構造化TiN電極による電磁場増強のSERSプローブ評価

Öner, I.H., David, C., Querebillo, C.J., Weidinger, I.M., Ly, K.H. “Electromagnetic Field Enhancement of Nanostructured TiN Electrodes Probed with Surface-Enhanced Raman Spectroscopy.” Sensors 2022, 22, 487. https://doi.org/10.3390/s22020487

背景

 近年、高性能なプラズモン材料の開発が急速に進展している。特に、金や銀に代わる低コストで耐久性の高い材料として注目されているのが窒化チタン(TiN)である。TiNは、金属様の導電性、高い熱的および化学的安定性、さらには高い生体適合性を有しており、耐火性プラズモン材料としてユニークな特性を備えている。そのため、TiNはバイオ電子・医療デバイス用の電極、光熱変換材料、電気触媒材料、さらには光学センシング基板としての応用が模索されてきた。このような応用の鍵となるのが、TiNの局所表面プラズモン共鳴(LSPR)によって生じる近接場の光増強効果である。LSPRは可視から近赤外領域にわたり存在し、その共鳴波長や強度はナノ構造の設計によって精密に調整可能である。特に、ナノ粒子、ナノチューブ、ナノロッド、ナノキューブなど様々な形状のTiNナノ構造体が報告されており、それぞれが特有のプラズモン活性を示す。また、光学特性の評価には主にUV-Vis分光法が用いられており、TiNが持つ広範な吸収特性が確認されている。その中でも、分子のラマン散乱を著しく増強する表面増強ラマン散乱(SERS)分光法は、TiNの近接電磁場の強度を定量的に評価できる強力な手法として期待されている。SERSは、プラズモン性材料が提供する局所電磁場によって、近傍の分子のラマン信号が増幅される現象であり、ナノ構造材料の光増強能力を直接かつ定量的に反映する。

従来技術の問題点

 しかし、これまでのSERSを用いたTiN電極の評価では、電磁場増強効果(EME)を純粋に反映しているとは限らなかった。従来の研究では、測定に使用される分子がTiN表面に直接吸着または化学吸着していた。特に、ローダミン6Gやメチレンブルーのような強吸収性色素を用いた場合、共鳴ラマン効果および化学的増強効果が複合的に作用し、得られたラマン増強因子(REF)が電磁場のみの寄与とは言えなくなる。その結果、実験的に得られるREFから電磁場増強因子(EF)を正確に導出することが困難であった。さらに、これまでの評価ではUV-Visスペクトルが主に用いられていたが、これは空気中や真空中での測定であり、実際の電解質溶液や電位下でのセンサ動作条件を十分に反映していなかった。

解決方法の提案と結果

 そこで、本研究では非吸着性分子であるアジドベンゼン(AB)をプローブ分子として用い、SERS分光法によりナノ構造化TiN電極の電磁場増強効果を定量的に評価した。アジドベンゼンはTiN表面と化学結合を形成しないことが電気化学測定により確認されており、化学的増強効果の寄与を最小限に抑えた。TiO₂ナノチューブを前駆体とし、950°Cでアンモニア中でアモノリシス処理することによりTiNへと変換し、部分的に崩壊したナノチューブ構造を持つTiN電極を作製した。この構造は、光の閉じ込めとプラズモン効果を併せ持ち、高い近接場増強能を有する。SERS測定は、可視から近赤外までの5波長(413, 514, 594, 647, 785 nm)で実施され、各波長におけるABのラマン信号の増強因子(REF)が算出された。特に785 nm励起において最大REF ≒ 14、対応するEF ≒ 3.9が得られ、強い電磁場増強効果が確認された。また、近接場と遠方場の光応答は、厳密結合波解析(RCWA)を用いて数値シミュレーションされ、実験結果と良好な一致を示した。700 nm付近での光吸収とEFの極大は、格子共鳴による集団的なプラズモンモードの寄与によるものであり、このナノ構造TiN電極が高い局所秩序性を有していることを示唆する。

論文で使用されたCoboltのレーザー

594nmレーザー Mambo
594nmレーザー Mambo
785nmレーザー NLD785
785nmレーザー NLD785

SERS測定におけるTiN基板の波長依存電磁場増強係数の定量評価のための励起光源として使用された。