Kim, T., Park, S., Iyer, V., Shaheen, B., Choudhry, U., Jiang, Q., Eichman, G., Gnabasik, R., Kelley, K., Lawrie, B., Zhu, K., & Liao, B.
“Mapping the pathways of photo-induced ion migration in organic-inorganic hybrid halide perovskites.” Nature Communications 14, 1846 (2023). https://doi.org/10.1038/s41467-023-37486-w
背景
有機-無機ハイブリッドペロブスカイト(OIHP)は、近年その優れた光電変換効率と加工性の良さから、太陽電池や光電子デバイスへの応用が急速に進められている。OIHPは、可視光領域に近い直接バンドギャップと鋭い吸収端、長い光キャリア拡散長、結晶欠陥や粒界への高い耐性を備えており、これらの特性が高い変換効率に寄与している。また、イオンと電荷キャリアの中程度の移動度、強いポラロン結合、光誘起変形効果(フォトストリクション)といった特徴も持ち、低温での溶液プロセスが可能であることから、コスト効率にも優れている。これらの特性により、OIHPは太陽電池以外の光電子デバイスにも幅広く応用される可能性を示している。
従来技術の問題点
しかし、OIHPは光照射、温度勾配、電場などによって内部でイオン移動が生じることが知られており、これが材料の不安定性や太陽電池における光電流ヒステリシスの一因とされている。これまでの研究では、ヨウ化物(I⁻)、鉛(Pb²⁺)、有機カチオン(メチルアンモニウムMA⁺、ホルムアミジニウムFA⁺)などのイオンが光照射により移動することが報告されているが、これらのイオンがどのような経路で拡散しているかについては未解明であった。特に、材料表面と垂直方向(バルク方向)双方における三次元的なイオン移動の詳細な可視化が困難であり、それがデバイス設計上の障壁となっていた。
解決方法の提案と結果
そこで、本研究では、スキャンニング電子顕微鏡(SEM)に光源を内蔵し、レーザー照射下における二次電子像(SEI)、エネルギー分散型X線分光(EDS)、カソードルミネッセンス(CL)を用いて、OIHPにおける光誘起イオン移動を三次元的にマッピングする手法を構築した。対象材料としてMAPbI₃(メチルアンモニウム鉛ヨウ化物)およびFAPbI₃(ホルムアミジニウム鉛ヨウ化物)を用い、レーザー光照射により数百マイクロメートルに及ぶハロゲンイオンの長距離移動を観察した。また、鉛イオンがバルクから表面へ向かって垂直方向に移動するという意外な挙動も確認された。EDS解析では、ヨウ素の欠損が照射中心から広がる形で進行し、その拡がりは光照射時間とともに増加し、ヨウ素イオンの拡散係数は約3.5 × 10⁻¹⁰ cm²/sと見積もられた。一方、鉛イオンは表面近傍への集積が認められ、長時間照射によりリング状の分布を示すことが明らかとなった。この現象は、観察された二次電子像の輝度増加と一致しており、鉛リッチな領域が電子放出を強めたと考えられる。さらに、基板材料(SiやSn)からの元素信号の変化も観測され、イオン移動による材料間相互作用の可能性が示唆された。CL解析においては、PbI₂に由来する発光の完全な消失が確認され、光によるイオン移動が顕著である一方で、熱分解に特有なPbI₂生成は起こっていないことが証明された。これは、照射による温度上昇が30K未満に抑えられていたこととも一致している。加えて、環境劣化したFAPbI₃では光照射によって発光特性の一部が回復する現象も観察され、イオン移動が一部の欠陥を修復する可能性を示している。以上のように、本研究は光照射によって誘発されるOIHP中のイオン移動を三次元的に可視化し、その詳細な経路と影響を明らかにした点で意義深い。また、観察されたイオン移動はデバイス特性や安定性に密接に関与することから、今後の材料設計や製造プロセスにおける指針となる知見を提供している。
なお、本研究ではカソードルミネッセンス測定のための参照光源としてCobolt社製の532nmCWレーザーも使用されており、薄膜内での励起状態の比較解析に役立てられた。
論文で使用されたCoboltのレーザー
