モノレイヤー半導体スーパーラティスによる高光吸収の実現

Elrafei, S.A., Heijnen, L.M., Godiksen, R.H., Curto, A.G. “Monolayer Semiconductor Superlattices with High Optical Absorption.” ACS Photonics 2024, 11, 2587–2594. https://doi.org/10.1021/acsphotonics.4c00277

背景

 超薄膜材料における強い光吸収は、光エネルギーの収集、光検出、変調、センシングといったフォトニック・オプトエレクトロニクス応用において極めて重要であり、近年、急速に研究が進められている。波長よりも十分に薄い超薄膜の最大吸収率は理論的に50%とされているが、単一材料によってこの限界を超えることが望まれている。従来、吸収を高めるためにはミラー構造やメタ表面、干渉照射などの外部構造が必要であった。その中で、グラフェンや遷移金属カルコゲナイド(TMD)といった二次元結晶材料は、ナノメートル未満の厚みでありながら高い吸収特性を有することから注目を集めている。特に、単層WS₂(タングステンジスルフィド)は高い吸収係数と鋭い励起子共鳴を示し、光集積回路におけるメタレンズ、ミラー、空間光変調器、フォトディテクタなどの応用に適している。また、単層材料は直接バンドギャップを持つため、強い光と物質の結合状態を生み出すことができ、超解像波動伝搬にも寄与する可能性がある。

従来技術の問題点

 しかし、単層WS₂は優れた吸収能力を有する一方で、理論限界に達するには至っておらず、吸収率は理想的な環境でも16%程度にとどまる。また、自然に生成された多層構造やバルク結晶は、層間相互作用や誘電体遮蔽の増加によって励起子共鳴の広がり(線幅の増大)や吸収効率の低下が生じる。そのため、単層の性質を保ったまま、より高い吸収を実現するための構造的工夫が必要とされてきた。特に、層間距離が不均一または制御不能であると、光学特性が不安定となり、設計通りの性能が得られないという課題があった。

解決方法の提案と結果

 そこで、本研究では単層WS₂を人工的に積層し、複数のモノレイヤーをナノメートルレベルのスペーサーで隔てた「スーパーラティス」として構築することで、高い吸収率を実現した。著者らは、3種類の異なるスペーサー材料と積層方法を比較検討し、モノレイヤーの光学特性を保持しつつ吸収率を向上させることに成功した。第一の方法として、スペーサーを設けずに2枚のWS₂を直接積層した人工二層構造を作製し、最大27%の吸収率を達成した。ただし、層間距離の制御性が低く、加熱や真空処理により自然二層のように変化することが観察された。第二の方法では、TCNQ(テトラシアノキノジメタン)分子をスペーサーとして導入し、モノレイヤー間の距離を安定的に1〜2 nmに維持した。この分子スペーサーはp型ドーピング効果も有し、吸収率を25%に高めるとともに、発光強度も1.5倍に増加した。スペーサー濃度を変えることで吸収スペクトルの線幅やピークシフトの調整も可能であり、光学特性の最適化に寄与した。第三の方法として、Al₂O₃(酸化アルミニウム)を原子層堆積(ALD)法により成膜し、より高次のスーパーラティス(最大4層)を作製した。その結果、吸収率は4層で約31%に達し、構造のスケーラビリティと一貫性が示された。なお、熱処理やALD中のダメージによってPL効率は部分的に低下したが、さらなる最適化により改善可能とされる。

本研究で使用されたCobolt社製のレーザー発振器は、波長532 nmの連続発振型であり、フォトルミネッセンス(PL)測定の励起光源として用いられた。パワーは1~100 μWの範囲で制御され、サンプルのドーピング状態や光応答性に応じて適切に調整された。

532nmレーザー Samba
532nmレーザー Samba